炭素製品の基礎知識

プロローグ

炭素というと何を想像するでしょうか。
炭素といえばカーボン。カーボンといえばカーボン紙、カーボンロッド(炭素繊維でできている軽くて丈夫な釣竿)かな。
炭素製品は、一般的には黒いものすべてに関わっているといっても過言ではない程一般的に使用されているものです。
身の周りを見て黒いもの。 
新聞や本の文字は黒いな。そうです、インクの黒はカーボンが原料です。プラスチック等の黒もカーボンの黒です。
バーベキューで使う炭、石炭、練炭これも原料はカーボンですな。
ダイヤモンドこれも、炭素(カーボン)でできています。
コピー機のトナーもカーボンでできています。
ちょっと変わった所で、黒いゴム。これは、ゴムにカーボンを混ぜたものですが、ちょっと考えるといたる所でこの黒いゴムは見かけます。その代表選手はそう、タイヤです。
その他に、製鋼用の電極であったり、炭素繊維であったり、意外に色々な所でカーボンは使われています。
意外と思うかもしれませんが、かつてこのカーボンのメーカーで働いていた俺たちでありますので、この炭素に関しては少なからず知識があります。
一般的には知られていない地味な存在である炭素に関して知るのも一興とは思いませんか!!
まあ、このページにきてしまったあなたであるので、ちょっと俺たちの話を聞いて下さいな。
それでは、炭素に関してちょっとお話いたしましょう。
1.炭素の性能

炭素の2大工業製品は、「人造黒鉛電極」と「カーボンブラック」です。両方とも一般消費者には全くといっていいほど関係の無い製品ですので、関係者以外は知られていません。しかしながら、この製品は他の素材では代替がきかない優れた性能をもったものであり、いわば「世界を影から支えている製品」と言えます。
それでは、それぞれの製品について説明しましょう。Q&A方式で説明します。

人造黒鉛電極編

Q「人造黒鉛電極」ってなに

A人造黒鉛というくらいですから、天然黒鉛が存在します。
そもそも「黒鉛」もあまり馴染みがないと思われがちです。しかし実はそうでなく、例えば鉛筆の芯は天然黒鉛です。昔の記憶で申し訳ありませんが、「科学と学習」かなんかに、鉛筆の製造工程が載っていて、それによると鉛筆の芯は天然黒鉛を焼き固めて作ると書いてありました。人造黒鉛電極の製造方法は後述しますが「人造黒鉛電極」は文字通り人造の黒鉛でできている電極を言います。

Q「人造黒鉛電極」は何に使われているの。

A
鉄を作る装置の消耗品として電極は使われています。
ちょっと詳しく説明しましょう。現在、鉄を作る方法は2つあります。一つは鉄鉱石を高炉で溶かして鉄を精製する方法です。この方法で鉄を作っているメーカーは、新日鉄、日本鋼管 川崎製鉄 住友金属 神戸製鋼 の5大高炉メーカーです。超有名な大企業ですね。
今一つの方法が、スクラップ(屑鉄)を電気炉で溶かして鉄を精製する方法です。この方法で鉄を作っているメーカーは沢山あるのですが、大手としては、東京製鐵 日本金属工業 大阪製鐵 大同特殊鋼 王子製鉄 などの電炉メーカーあります。
電極は、後者の電炉メーカーで使用されています。
ここで、ちょっとラフにして乱暴ですが、簡単にそれぞれの鉄の作り方をご紹介しましょう。

まづは、高炉による製鉄ですが、原料は、鉄鉱石、石炭、石灰石です。
石炭と石灰石は製鋼のための触媒となるものであり、石炭はコークスに加工し石灰石は焼結し消石灰(ここは不明)とします。
そして、高炉に鉄鉱石、コークス、消石灰をぶち込み熱風を吹き込むと反応を起こして鉄分とその他が分離し、重い鉄分が下にその他が上に行くので、高炉の下の栓を開けると溶けた鉄が出てくるという仕組みになっています。

この高炉から出てきた鉄は銑鉄(せんてつ)といい、炭素分を多く含む鉄であり、このままだと硬いがもろい鉄で製品になりません。(おっと、ここでも炭素がでてきましたね。そうです、鉄に炭素を加えると鉄は硬くなるのです。逆に、炭素が少ない鉄は針金のように柔らかい鉄になってしまいます。)

そこで、転炉という炉に銑鉄を入れて酸素を吹き込み炭素成分を調整します。ここで、それぞれの用途にあった硬さの鉄になります。特に硬くて丈夫な鉄は鋼鉄と呼ばれています。

昔は、転炉で調整した鉄は半製品のスラブ、ブル−ム、ビレットという鉄の塊にして保管していました。
つまり、製鋼と加工は別物だったのです。
しかしながら、効率、コスト面からして、冷えて固まっているスラブ等を加熱して加工するより、転炉から出てきた溶けた鉄をそのまま加工した方が有利なのは当たり前の為、「連続鋳造加工技術」がすすみました。
その結果、転炉から出てきた鋼鉄はスラブ等に加工し熱いままそれぞれの用途の鉄に加工されることとなったのです。

ちょっと脱線
俺たちが小学生だった頃、TVで川崎製鉄のCFをやっていました。溶けた鉄があれよあれよという間に、H型鋼になっていき、間にさわやかな製鉄マンのカットが入るものでかっこいいと子供ながらに思っていました。
「川崎製鉄 新しい力 川崎製鉄 新しい未来 若者の 若者の 心の中に 燃え盛る 燃え盛る 鉄の炎 ・・・・」というバックグラウンドの中で上記情景が展開されているんだぜ。
当時、千葉県に住んでいた俺たちは、おやじの実家の館山に行く途中にある川崎製鉄を見る度にスゲー、かっこいいと思ってたんだぜ。川鉄よ新日鉄なんかに負けるな。と思ったらNKKにも負けとった。

かなり横道にそれました。
次に電炉による製鉄ですが、原料は屑鉄(スクラップ)です。屑鉄にも色々な種類が」あります。
一番上等なものは、鉄を加工するときに発生する、切子とか、打ち抜いた鉄の切れ端等です。その他のスクラップとしては、線路、車、空き缶、ビルの鉄筋と様々あります。

このスクラップをでかい釜にぶち込み、3本の電極(上記の人造黒鉛電極です)を釜の上から入れ、交流電流を流すと電極の先がスパークします。
このスパークした火花(アーク)が3000度くらいの熱をもっているのでスクラップは溶けます。3000度もの熱ですので電極は昇華してしまいます。つまり「人造黒鉛電極」は消耗品です。しかし、3000度もの高熱に耐えられる物質は炭素以外あり得ない為この炭素製の電極が使われている訳です。
電炉で溶けた鉄の後工程は高炉とほぼ同じです。
Q高炉で作る鉄と電炉で作る鉄の生産量及びその用途を教えてください
A.
約20年くらい前までの話としては、鉄の総生産量は1億トン/年と言われていました。内訳は、7,000万トンが高炉メーカーが作り、3,000万トンが電炉メーカーがつくっています。
最近リサイクルに関してはうるさい世の中になっていますが、鉄に関したらかなり昔からリサイクルは当たり前の世界だったのです。
用途に関しては、これも最近は境がなくなる方向にある様ですが、大雑把に言って、電炉で作られる鉄は主に棒鋼であり、建設用の鉄筋等に使われています。本当に身近な例としては、ブロックの中に入っているあの鉄の棒が棒鋼です。
高炉で作られる鉄は、厚板、薄板、鋼管、H型鋼などありとあらゆる鉄製品に使われています。
しかーし高炉メーカーにばかりうまい汁を吸わせておけんぞ。
当時、電炉メーカーの最大手である東京製鐵は、ビルを建てる上で主に使用されているH型鋼をつくり高炉メーカーに価格で殴りこみをかけた。
鉄を作る上で莫大に設備投資をしなければならない高炉メーカーに対して、設備費用のかからない電炉メーカーは、製造コスト面からかなり有利である。
そこで、東京製鐵は高炉の独占であったH型鋼を電炉で製造する技術を開発し勝負したわけですな。
結果はどうかって。東京製鐵が勝つには勝ちましたが、生産量が知れている状況なので業界に一石を投じた効果として評価されます。それ以降、H型鋼は高炉独占でなくなり、電炉のH型鋼も市場に受け入れられるようになったのですから。
Q人造黒鉛電極の製造方法を教えてください
A.
 人造黒鉛電極の原料は大雑把に言うとコークスとピッチです。これまた大雑把に製造工程を解説しますと次の通りです。
まず、コークスですが、ふるいにかけサイズを選別します。これは、同一サイズのコークスで電極を作ってしまうと、クラック(ヒビ)が入った時、途中で止まることなくピンと行ってしまう。(折れやすい)
サイズが不揃いであれば、大きさにより振動の周波数が違う為、周波数の違う所でヒビが止まる。(折れにくい)

様々なサイズのコークスをブレンドし、ピッチと混ぜます。(ピッチはコールタールみたいなやつです。(詳細 不明))
これを射出成型機で押し出し、円柱状の生電極ができます。
サイズは様々ですが、大体、直径は50〜60cm 長さ2mくらいが多い。

次の工程は焼きです。電極を固めてピッチをコークス化する為に重油で焼きます。
これで出来上がりかと思ったらまだまだです。 次にコークスを黒鉛化するために電気炉で再度焼きます。
電気炉は数千度という熱になる為、コークス内の不純物は昇華してしまい、炭素分99.8.%くらいの人造黒鉛電極ができあがります。
鉛色した電極は綺麗ですよ。

人間の知恵「テーパーニップル」

電極は消耗品であると前述しました。約3000度のアーク(火花)により電極は先端からどんどん昇華していきますので、後端に新しい電極を継ぎ足す必要があります。
その継ぎ足すつなぎ目をニップルと呼びます。人造黒鉛で造られたネジです。
ニップルはネジのようにラセン状の溝がきってあります。
当初のニップルは円柱の形をしておりそこに溝がきってありました。
この形状のニップルで大きな問題が二つありました。

一つは、円柱状のニップルだと、切ってある溝の分だけ電極を回転させる必要があり、接合に時間がかかるということです。
これは、接合する作業環境が数千度に熱せられた釜の上で行う事を考えると切実な問題です。

二つ目は、円柱状のニップルだと、電極どうしを平行にしてねじ込まないと、つまりチョッとでも傾いてねじ込むとピッタリと接合できないということです。下手すると、ねじ山が欠けたりして接合不能になります。わかりますよね。

この二つの問題を一気に解決したのが、テーパーニップルです。
テーパーニップルはどんな形をしているかといえば、そろばんの玉みたいな形です。こうすることにより、ねじ込む回転が従来10回転していた所が3回転ですんでしまう。
このテーパーニップルの発明により、接合のし易さ、接合時間が大幅に削減され現場の作業員にとって天の助けといえました。
やはり必要があって初めて発明は生まれるのですね。